――昼食の後、純也さんは愛美を日(に)本(ほん)橋(ばし)へ連れて来てくれた。「愛美ちゃん、ここが日本橋。日本の出発地点だよ」「学校の地理の授業で習ったよ。東海道とか中山道(なかせんどう)のスタート地点なんだよね。――で、これがあの有名な翼のある麒(き)麟(りん)像か……」 愛美は橋の中ほどにある彫像を見上げた。 麒麟とは動物園やアフリカ・サバンナにいる首の長い動物のキリンではなく、中国で四聖獣――玄(げん)武(ぶ)・朱(す)雀(ざく)・青(せい)龍(りゅう)・白(びゃっ)虎(こ)とともに聖獣と崇(あが)められている空想上の生き物で、ビールのパッケージなどのデザインにもなっている。 本来の麒麟には翼がないのだけれど、この麒麟像に翼があるのは「ここから自由に羽ばたいていってほしい」という作者の想いが込められているのだそう。「そういえば、この麒麟像が登場する東(ひがし)野(の)圭(けい)吾(ご)さんのミステリー小説があったよね。わたしもあのシリーズが好きでよく読んでるよ」「ああ、あの刑事が主人公のシリーズだろ? 俺も好きだな。あれ、何作もドラマとか映画化もされてるよ。多分ネットで配信もされてるから、観てみるといい。特に『麒麟の翼』と『祈りの幕が下りる時』は泣けるよ」 純也さんはやっぱり読書が好きらしく、自分の好きな作品の話をする時の表情はイキイキしている。彼と好きな本が共通していることが愛美は嬉しかった。 ここでも純也さんがモデルのイメージショットを数枚撮り、付近の町並みをブラブラ歩いてから、二人は車に戻った。「――さて、愛美ちゃん。次はいよいよお楽しみの場所、日比谷(ひびや)の帝国ホテルへ向かいます」「えっ、ホテル? そこがお楽しみの場所なの?」 愛美は予想外の行き先に目を丸くした。 帝国ホテルは愛美も名前くらいは知っている、言わずと知れた格式高い高級ホテルだ。今日は日帰りの予定なので泊まるわけだはないようだけれど、そこで一体何をするつもりなんだろう?「うん。愛美ちゃん、〝ヌン活〟って知らないかな?」 まだ車はスタートさせていなかったので、純也さんはスマホで何かを検索して画面に表示させ、愛美に向けた。「あ、聞いたことある。もしかして……アフタヌーンティー?」「大正解♪ 帝国ホテルのアフタヌーンティーは、宿泊客じゃなくても利用できる
* * * * 純也さんが予約してくれていたアフタヌーンティーは、一階のレストランのものだった。 館内は高級感が漂いながらも上品で、落ち着いた感じがする。辺唐院家のキラキラ・ケバケバした感じとはかけ離れていて、愛美はこちらの方が寛げそうだと思った。「――すみません、アフタヌーンティーを二名で予約している辺唐院ですが」「はい。ただいまお席へ案内致します。上着とお荷物、お預かり致しますね」「あ、はい」 愛美と純也さんはスマホと財布のみを持って、レストランのスタッフの女性に案内されたテーブル席に着いた。「――愛美ちゃん、スコーンって食べたことあるかい?」「そういえば……ないかも。スコーンってどんなのだっけ?」 横浜にはパン屋さんがたくさんあるので、パン屋さんの店先に売られているのをみかけたことはあるかもしれない。でも、実際に買って食べたことはなかった。「えーっと、イギリス発祥で、パンとクッキーの中間みたいな感じでね。アフタヌーンティーには欠かせないお菓子なんだ。イチゴとかブルーベリーのジャムをつけて食べると美味しいんだよ。パン屋にはチョコチップを練り込んで焼かれたものも売られてるね」「へぇー……、美味しそう」 今日食べてみてハマったら、今度パン屋さんでも買って食べてみようと愛美は思った。「――お待たせ致しました。アフタヌーンティーセット、二人前でございます。ゆっくりお楽しみ下さいませ」 やがて、二人の前に三段重ねのシルバートレーのティーセットが運ばれてきた。そのトレーには一段目に美味しそうなサンドイッチ、二段目にスコーン、いちばん上の段に小ぶりなケーキなどのスイーツが盛り付けられている。 そして、ティーポットからは紅茶のいい薫りがしてくる。まさに映画や小説などで見る、貴族のティータイムの光景。(わぁ……、こんなにステキな光景が現実にあるなんて!) 〝あしながおじさん〟に出会っていなければ、愛美はきっとこの場に来ることもなかっただろう。でも、セレブの御曹司である純也さんに――〝あしながおじさん〟に出会えたから、ここに来ることができた。(……でも、この人はまだ知らないんだろうなぁ。わたしが今そう思ってること)「美味しそうだね、愛美ちゃん。じゃ、頂こうか」「うん。いただきま~す」 スタッフの男性に紅茶を給仕してもらい、愛美は純也
「……そういえば愛美ちゃん、ここでは写真撮らなくてよかったの?」「あ、忘れてた!」 純也さんに言われて気がついた。今日は行く先々で、取材として写真を撮っていたのに。ティータイムを楽しむのに夢中になって、すっかり頭の中からスッポリ抜け落ちていたのだ。「でもいいの。このアフタヌーンティーは予定外の時間だったし、自分へのごほうびタイムだと思って取材は抜きってことにするから」 もし、ここも「取材だ」と割り切っていたら、こんなに楽しめなかっただろうから。愛美もここは純粋に「デートだ」と思って、心から楽しむことにしたことにする。 ……ただ、SNSにアップするためになら写真を撮っておいてもよかったかな、と思ったり。「っていうか、純也さんってここでも目立ってるね。イケメンだし背が高いから」「……ん? そうかな?」 彼は気にしていないようだけれど、二人のテーブルの周りにいる女性客たちがみんなザワついているのだ。モデル並みの容姿を持つこのイケメンは一体何者かしら、と。(そして、そのイケメンとふたりでお茶してるわたしは、彼の何だと思われてるんだろう……) 少なくとも恋人だとは思われていないだろう。親戚とか、そんなふうにしか見えないかもしれない。「でも俺は、君以外は眼中にないから。愛美ちゃんも周りからどう見られてるかなんて気にしなくていい。君が俺の恋人であることに間違いはないんだからね」「あ……、うん。そうだよね」 周りからどう見えるかが気になるのは、愛美自身が「純也さんとわたしは釣り合っていないんじゃないか」と気にしているからだ。(愛美、純也さんの言う通りだよ。そんなの気にしちゃダメ! 彼が本気で好きになってくれたのはあなただけなんだから、もっと自信持たないと!)「こんなに非日常が味わえる時間、周りの目なんか気にしてたら楽しめないよね。よし、ここにいるのはわたしと純也さんと、給仕の人だけ。他の人たちの存在は忘れちゃおう!」「はははっ! 愛美ちゃん、それはいくら何でもオーバーじゃないか?」「そうかなぁ?」 純也さんは笑うけれど、そのおかげで場の空気が和み、愛美はこの非日常の空間での時間を心から楽しむことができた。
* * * * ラグジュアリーな空間でのんびりお茶を楽しみ、愛美と純也さんはお腹も心も満たされた。 二人はクロークでコートとバッグを受け取り、レストランを出た。「な? 昼食軽めにしてよかったろ?」「うん、ホントにね」 支払いは純也さんが二人分もってくれた。 ここのアフタヌーンティーの料金はかなり高額で、一人分でも六千円以上かかる。さすがにこの金額は、高校生がお小遣いで支払える額の範囲を超えている。(純也さん、どっちで支払ったんだろう? ブラックカード? それとも現金で?)「――お待たせ! 支払い済んだから出よう」 首を傾げている愛美のところへ、ホテルのフロントから純也さんが戻ってきた。「はーい。――ね、純也さん。支払いは現金とカード、どっちで?」「ここはカードで。ブラックカードってね、ホントはあちこちでひけらかすようなものじゃないんだけどさ。ホテルのフロントではカード払いの方が楽っちゃ楽なんだよな」「…………ほぇー」 愛美はそう言われてもピンと来なくて、間の抜けた声を出すしかなかった。 * * * * 帝国ホテルを出ると、日が傾き始めていた。 二人は車で、今日の最終目的地である東京スカイツリーへ行った。 ここは全長六百三十四メートルという、世界一の高さを誇る電波塔である。 タワーの下には〈東京ソラマチ〉という複合施設があって、そこにはショッピングモールや水族館も入っている。「――わぁ……、キレイな夕日……」 ここの入場チケットも純也さんが買ってくれて、二人はエレベーターで天望デッキへ上がった。 ガラス張りの窓の外には東京の街並みが広がっていて、西の空にはちょうど日が沈みかけている。「ちょうどいい時間に来られたな。もう少し暗くなってからだと、ここから見える東京の夜景がキレイなんだけど……。さすがにそんな遅い時間までは高校生を連れ歩けないから」「う~ん、キレイな夜景を見られないのは残念だけど。この夕焼けが見られただけでも、今日は来た価値はあるかな。純也さん、連れてきてくれてありがとう」 愛美は彼にお礼を言い、スマホで夕日の写真を撮った。「俺のイメージショットは要らないの?」「うん。ここは小説に登場させるかどうかまだ決めてないから。あの夕日だけでも記念に撮っておきたくて」「……そっか」「でも、今日一日あち
「――ねえ、純也さん。わたしがどうして純也さんのことを好きになったか分かる?」 手すりにもたれかかりながら、愛美は隣りに立つ彼に訊ねる。この恋が始まったキッカケを、彼に打ち明けたことは今までなかった。「……いや、分からないな。教えてくれるかい?」「純也さん、初めて学校を案内した時に、わたしの名前を褒めてくれたでしょ? あと、会ったこともないわたしの両親のことも。だからわたし、純也さんのこと好きになったんだよ」 愛美自身も、あの頃はまだ亡くなった両親から愛されていたかどうか自信がなかったので、純也さんに言われた言葉で救われたのだ。今は自分が確かに両親から愛されていたんだと思えるし、両親の愛に報いるような生き方をしようとも思える。「あれがキッカケで……? 俺はごく普通のことしか言ってなかったつもりだったんだけどな」「ううん。わたし、あの時までは誰かからそんなふうに言われたこと、あんまりなかったから嬉しかったの。だからだと思う。純也さんのこと、すごく好きになったのは。……だから、ありがとう」「そう……だったのか」「うん。そうだったんだよ」 そして彼は、色々な場面で愛美のことを気にかけてくれている。インフルエンザで入院生活を余儀なくされた時には、お見舞いにキレイなフラワーボックスを送ってくれた。心のこもった手書きのメッセージカードを添えて。あんなに失礼極まりない手紙を書き送ったにも関わらず。 それはあくまで〝あしながおじさん〟としてしてくれたことで、愛美もその頃はまだ彼がしてくれたんだとは知らなかったけれど。 でも、愛美はまだ純也さんに「あなたが〝あしながおじさん〟でしょう」と追及するつもりはない。なぜなら、愛美のことを欺(あざむ)き続けていることにいちばん良心の呵(か)責(しゃく)をおぼえているのは誰でもない彼自身だと分かっているから、彼の方から本当のことを打ち明けてくれるまで待っていることに決めたのだ。(気づかないフリをするのもまた、一つの勇気なんだよね……)
「――俺が愛美ちゃんを好きになった理由は、前にも話したよな。君は俺のことを家柄とかステータスでじゃなくて、一人の人間として、一人の男としてちゃんと見てくれてるから。それまで出会ってきたどんな女性とも違うと思った。それで珠莉と同い年の、十三歳も歳下の女の子だと頭では分かってても好きだっていう気持ちは止められなかったんだ」「うん」 だから彼は、ヌン活の時にあんなことを言ったのか。あれはきっと、愛美に言っているようで自分自身にも言い聞かせていたんだろう。「純也さん、わたしとの年の差のことは気にしなくていいよ。わたし、四月で十八歳になるの。つまり、法律上は成人ってことだから、付き合ってても何の問題もなくなるんだよ」「ああ……、そっか。う~ん、でも法律上は問題なくなっても、珠莉がどう思ってるかな……」「珠莉ちゃんのことなら気にしないで。今はわたしと純也さんの仲を応援してくれてるから。好きな人できたから、純也さんのこと気にしてないと思うし」「えっ、アイツに好きな男ができた!? どんなヤツか、愛美ちゃんは知ってるのか?」 愛美の思いがけない発言に、純也さんは「初耳だ」とばかりに目を丸くした。「知ってるよ。そして多分、純也さんも知ってる人」「俺も知ってる……っていうと、もしかして、さやかちゃんのお兄さんとか? まさかなー」「うん、そのまさか」「ウソっ!? マぁジでー!?」 純也さんのリアクションは、今どきの若者らしいものだった。けれど、三十歳にしては若すぎる気がしなくもない。「まだお付き合いはしてないみたいだけど、連絡先は交換してやり取りはしてるみたいだよ」「まだ付き合ってはいないのか。でも、珠莉にもそういう相手ができたんだな。ちょっと安心した」「純也さん、叔父さんの顔になってる」 久しぶりに彼のそういう表情を見て、愛美は笑った。 ――話しているうちに、外の夕焼けが濃くなっていた。ラベンダー色に染まった二人は何だかロマンチックだ。 その雰囲気に後押しされるように、二人は自然と唇を重ねていた。キスをしたのは夏以来だと思う。「愛美ちゃん、今日は楽しかった?」「うん、すごく楽しかったよ」「よかった。じゃあ、そろそろ帰ろうか。――また二人でどこかに出かけようね」「うん!」 ――二人は手を繋ぎ、エレベーターに乗ってスカイツリーの外へ。愛美ももう
* * * * ――その日の夕食も、愛美は純也さんと珠莉と三人だけで、二階のセカンドダイニングで摂ることになった。「ウチの他の連中は、食事のマナーとかにいちいちうるさいから。一緒のテーブルを囲むのは愛美ちゃんにとってストレスになると思うんだ」 との純也さんの計らいで、毎食そうすることになったのだという。もちろん、愛美にも異存はなかったので、彼のその提案をありがたく受け入れることにした。「――で、お二人とも。今日のデートはどうでしたの? 充分に楽しめまして?」 この三人ならマナーを気にしなくていいので、食事中もお喋りが弾む。 珠莉が親友と叔父のカップルに、初デートの感想を訊ねた。「うん、楽しかったよ。純也さんに色んな面白いところに連れていってもらえて、写真もいっぱい撮ってきた。あと、初めてアフタヌーンティーも体験してきたの」「あら、よかったわねえ」「俺も、久しぶりに愛美ちゃんと一日ずっと一緒に過ごせて楽しかった。まだ連れて行けてないところがいくつもあるのが残念だけどな」 「わたしも、ソラマチは行きたかったなぁ。でも、これで小説の大体のイメージは掴めたから、いよいよ執筆に入れるよ」「そう。頑張ってね。……私も頑張らなきゃ」「……ん?」「え? 珠莉ちゃん、『頑張らなきゃ』って何を?」 珠莉が自分に言い聞かせるようにポツリと言った一言に、愛美も純也さんも首を傾げた。「……純也叔父さま、私、この後お父さまとお母さまに自分の夢について打ち明けようと思いますの。お願いですからついてきて下さいません?」「分かった。一緒に行ってやろう」「ありがとうございます、叔父さま」「そっか、いよいよだね。珠莉ちゃん、頑張って! わたしは一緒についていけないけど、応援してるからね!」「ええ。ありがとう、愛美さん」 珠莉は愛美にもお礼を言った。その決意を秘めた笑顔には、初めて会った頃のつっけんどんな彼女の面影はどこにも見当たらない。(わたしが夢を叶えて、今度は珠莉ちゃんの番! ご両親の説得、純也さんと一緒に頑張ってほしいな……)「……珠莉、変わったな。どうやら愛美ちゃんからいい影響を受けてるらしい」「うん。もしホントにそうだったら、わたしも嬉しいな。――純也さん、珠莉ちゃんの援護射撃よろしくね」「ああ、もちろん!」 * * * * ――
「とりあえず、書き始めれば何とかなるかな。でも、その前に……おじさまに手紙書こう」 手紙を受け取る相手が、今宛て先の住所にいないことは分かっている。だって、〝彼〟はこの屋敷にいるのだから。 それでも、愛美はけじめとして手紙を出すことにしたのだ。****『拝啓、あしながおじさん。 昨日からの連投、失礼します。今日の純也さんとの初デートがあまりにも楽しかったので……。 もちろん、ちゃんと取材もしてきましたよ。写真もいっぱい撮ってきました。 まず最初に、彼はわたしを銀座に連れていってくれました。わたし、銀座って大人の楽しむ街だと思ってたんです。でも全然そんなことなくて、まだ高校生のわたしと、大人だけどまだ若い純也さんも充分楽しめました。 銀座の街で最初に見たのは、有名な和光ビルの時計台。「この時計台は、有名な怪獣映画で壊されたことがあるんだよ」って純也さんが冗談半分で教えてくれました。もちろん、壊されたのは映画のセットなんですけど(笑) それくらい、わたしにだって分かります。 そしてわたし、その怪獣映画観たことない……。 それはともかく、わたしは純也さんを主人公のイメージモデルにして、色んなところで写真を撮りました。GINZA6、ブランドショップ街、オシャレなファッションビルにストリートピアノの前……。 それでわたし、撮影しながら思ったの。やっぱり純也さんはこの街の景色が似合うなぁ、って。やっぱり彼はセレブなんだな、って。そしてやっぱり、この小説の主人公は純也さんで間違いないなって確信しました。 その後は浅草に行って、浅草寺にお参りしました。仲見世通りもブラブラして、そこでもイメージショットを撮影しました。 あと、合羽橋の道具屋筋も見て回って、早めにランチを摂りました。純也さんから「軽めにしよう」って言われたので、バーガーショップで彼はハンバーガーとポテトのセット、わたしはチーズバーガーとポテトのセットを食べました。 純也さんは生まれながらのセレブだけど、ハンバーガーとかクレープみたいなジャンキーな食べ物も好きみたい。そういう気取りのないところがわたしは好きなんですけど。 純也さんってば、食べてる最中に口の横にケチャップがついてるのに、わたしに拭いてほしかったからってわざと自分で拭かなかったの! まるで子供みたいに世話が焼けるんだから! で
* * * * というわけで、卒業式前の連休――というか厳密に言えば自由登校期間だけれど――の初日、二泊三日分の荷物を携えた愛美とさやかはJR長野駅の前に立っていた。「――愛美、あたしの分まで交通費全額出してもらっちゃって悪いね。でもよかったの?」「いいのいいの! わたし今、口座に大金入ってるから。ひとりじゃ使いきれないし、使い道も分かんないし」 冬休みに突然舞い込んできた二百万円というお金は、まだギリギリ高校生でしかも施設育ちの愛美にとってはとんでもない大金だった。作家として原稿料も振り込まれてくるけれど、さすがに百万円単位はケタが違う。印税でも入ってこない限り、そんな金額は目にすることがないと思っていた。「そっか、ありがとね」 多分、さやかもそんな大金はあまり見ないんじゃないだろうか。 そして、愛美に自分の分まで交通費を負担してもらったことを申し訳なく感じているだろうから、後で「立て替えてもらった分、返すよ」と言ってくるに違いない。その分を受け取るべきかどうか、愛美は迷っていた。 さやかの顔を立てるなら、素直に受け取るべきだろうけれど。愛美としては貸しにしているつもりはないので、返してもらうのも何か違う気がしているのだ。 それはきっと、もっと大きな金額を愛美に投資してくれている〝あしながおじさん〟=純也さんも同じなんだろうと愛美は思うのだけれど……。「――農園主の善三さんの車、もうすぐこっちに来るって。奥さんの多恵さんからメッセージ来てるよ」「そっか」 スマホに届いたメッセージを見せた愛美にさやかが頷いていると、二人の目の前に千藤農園の白いミニバンが停まった。助手席から多恵さんが降りてくる。「愛美ちゃん、お待たせしちゃってごめんなさいねぇ。――あら、そちらが電話で言ってたお友だちね?」「はい。牧村さやかちゃんです」「初めまして。愛美の大親友の牧村さやかです。今日から三日間、お世話になります」 さやかが礼儀正しく挨拶をすると、多恵さんはニコニコ笑いながら「こちらこそよろしく」と挨拶を返してくれた。「静かな場所で過ごしたくて、ここに来たいって言ったそうだけど、ウチもまあまあ賑やかよ。だからあまり落ち着かないかもしれないわねぇ」「いえいえ! 寮の食堂に比べたら全然静かだと思います。ね、愛美?」「うん、そうだね。多恵さん、ウ
――今年の学年末テストもバレンタインデーも終わり、卒業式が間近に迫った三月初旬。さやかが思いがけないことを愛美に言った。「卒業式前の連休、あたしも一緒に長野の千藤農園に行きたいな。愛美、執筆の息抜きに行きたいって言ってたじゃん」「えっ、わたしは別に構わないけど……。さやかちゃん、急にどうしたの?」 部屋の勉強スペースで執筆をしていた愛美は、キーボードを叩いていた手を止めて小首を傾げた。彼女が「千藤農園へ行きたい」なんて言ったことは今まで一度もなかったから。「いやぁ、愛美がいいところだって言ってたし、あたしも前から一度は行ってみたいと思ってたんだよね。純也さんのお母さん代わりだったっていう人にも会ってみたかったしさ。っていうかぶっちゃけ、最近食堂がうるさくてストレスなんだわ」「あー……、確かに。会話もままならない感じだもんね」 さやかも言ったとおり、最近〈双葉寮〉の食堂では特に夕食の時間、みんなが一斉におしゃべりをする声が大きくこだましてやかましいくらいである。隣り同士や向かい合って座っていても、話す時には手でメガホンを作って「おーい!」とやらなければ聞こえないのだ。そりゃあストレスにもなるだろう。「分かった、わたしから連絡取ってみるよ。この時期だと……、農園では夏野菜の苗を植え始めたりとかでちょっとずつ忙しくなるだろうから、一緒にお手伝いしようね。あと、純也さんと二人で行った場所とかも案内してあげる」「やった、ありがと! 野菜育てるお手伝いなら、ウチもおばあちゃんが家庭菜園やってるからあたしもよくやってたよ。じゃあ、連絡よろしくね」「うん」 愛美のスマホには、千藤農園の電話番号はもちろん多恵さんの携帯電話の番号も登録してある。愛美から連絡したら、多恵さんはびっくりしながらも喜んでくれるだろう。ましてや、今回は一人ではなく友だちも一人連れていくんだと言ったら、大喜びで歓迎してくれるだろう。「じゃあ、原稿がキリのいいところまで書けたら、さっそく多恵さんに電話してみよう」 という言葉どおり、愛美は執筆がひと段落ついたところで多恵さんの携帯に電話した。
* * * * 部活も引退したことで執筆時間を確保できるようになった愛美は、本格的に新作の執筆に取りかかることができるようになった。「――愛美、まだ書くの? あたしたち先に寝るよー」 〝十時消灯〟という寮の規則が廃止されたので、入浴後に勉強スペースの机にかじりついて一心不乱にノートパソコンのキーボードを叩き続けていた愛美に、さやかがあくび交じりに声をかけた。横では珠莉があくびを噛み殺している。「うん、もうちょっとだけ。電気はわたしが消しとくから、二人は先に寝てて」 本当に書きたいものを書く時、作家の筆は信じられないくらい乗るらしい。愛美もまさにそんな状態だった。「分かった。でも、明日も学校あるんだからあんまり夜ふかししないようにね。じゃあおやすみー」「夜ふかしは美容によろしくなくてよ。それじゃ、おやすみなさい」 親友らしく、気遣う口調で愛美に釘を刺してから、さやかと珠莉はそれぞれ寝室へ引っ込んでいった。「うん、おやすみ。――さて、今晩はあともうひと頑張り」 愛美は再びパソコンの画面に向き直り、タイピングを再開した。それから三十分ほど執筆を続け、キリのいいところまで書き終えたところで、タイピングの手を止めた。「……よし、今日はここまでで終わり。わたしも寝よう……」 勉強部屋の灯りを消し、寝室へスマホを持ち込んだ愛美は純也さんにメッセージを送った。 『部活も引退したので、今日からガッツリ新作の執筆始めました。 今度こそ、わたしの渾身の一作! 出版されたらぜひ純也さんにも読んでほしいです。 じゃあ、おやすみなさい』 送信するとすぐに既読がついて、返信が来た。『執筆ごくろうさま。 君の渾身の一作、俺もぜひ読んでみたいな。楽しみに待ってるよ。 でも、まだ学校の勉強もあるし、無理はしないように。 愛美ちゃん、おやすみ』「……純也さん、これって保護者としてのコメント? それとも恋人としてわたしのこと心配してくれてるの?」 愛美は思わずひとり首を傾げたけれど、どちらにしても、彼が愛美のことを気にかけてくれていることに違いはないので、「まあ、どっちでもいいや」と独りごちたのだった。 高校卒業まであと約二ヶ月。その間に、この小説の執筆はどこまで進められるだろう――?
――そして、高校生活最後の学期となる三学期が始まった。「――はい。じゃあ、今年度の短編小説コンテスト、大賞は二年生の村(むら)瀬(せ)あゆみさんの作品に決定ということで。以上で選考会を終わります。みんな、お疲れさまでした」 愛美は部長として、またこのコンテストの選考委員長として、ホワイトボードに書かれた最終候補作品のタイトルの横に赤の水性マーカーで丸印をつけてから言った。 (これでわたしも引退か……) 二年前にこのコンテストで大賞をもらい、当時の部長にスカウトされて二年生に親友してから入部したこの文芸部で、愛美はこの一年間部長を務めることになった。でも、プロの作家になれたのも、あの大賞受賞があってこそだと今なら思える。この部にはいい思い出しか残っていない。 ……と、愛美がしみじみ感慨にふけっていると――。「愛美先輩、今日まで部長、お疲れさまでした!」 労(ねぎら)いの言葉と共に、二年生の和田原絵梨奈から大きな花束が差し出された。見れば、他の三年生の部員たちもそれぞれ後輩から花束を受け取っている。 これはサプライズの引退セレモニーなんだと、愛美はそれでやっと気がついた。「わぁ、キレイなお花……。ありがとう、絵梨奈ちゃん! みんなも!」「愛美先輩とは同じ日に入部しましたけど、先輩は私にいつも親切にして下さいましたよね。だから、今度は私が愛美先輩みたいに後輩のみんなに親切にしていこうと思います。部長として」「えっ? ホントに絵梨奈ちゃん、わたしの後任で部長やってくれるの?」 いちばん親しくしていた後輩からの部長就任宣言に、愛美の声は思わず上ずった。「はい。ただ、正直私自身も務まる自信ありませんし、頼りないかもしれないので……。大学に上がってからも、時々先輩からアドバイスを頂いてもいいですか?」「もちろんだよ。わたしも部長就任を引き受けた時は『わたしに務まるのかな』ってあんまり自信なくて、後藤先輩とか、その前の北原部長に相談しながらどうにかやってきたの。だから絵梨奈ちゃんも、いつでも相談しに来てね。大歓迎だから」 「ホントですか!? ありがとうございます! でもいいのかなぁ? 愛美先輩はプロの作家先生だから、執筆のお仕事もあるでしょう?」「大丈夫だよ。むしろ、執筆にかかりっきりになる方が息が詰まりそうだから。絵梨奈ちゃんとおしゃべりして
それはともかく、わたしは園長先生から両親のお墓の場所を教えてもらって、クリスマス会の翌日、園長先生と二人でお墓参りに行ってきました。〈わかば園〉で聡美園長先生たちによくして頂いたこと、そのおかげで今横浜の全寮制の女子校に通ってること、そしてプロの作家になれたことを天国にいる両親にやっと報告できて、すごく嬉しかったです。 園長先生はさっそくわたしが寄付したお金を役立てて下さって、今年のクリスマス会のごちそうとケーキをグレードアップさせて下さいました。おかげで園の弟妹たちは大喜びしてくれました。まあ、ここのゴハンだって元々そんなにお粗末じゃなかったですけどね。 そしておじさま、今年もこの施設の子供たちのためにクリスマスプレゼントをドッサリ用意して下さってありがとう。もちろん、おじさまだけがお金を出して下さったわけじゃないでしょうけど。名前は出さなくても、わたしにはちゃんと分かってますから。 お正月には、施設のみんなで近くにある小さな神社へ初詣に行ってきました。やっぱりおみくじはなかったけど……。 もうすぐ三学期が始まるので、また寮に帰らないといけないのが名残惜しいです。やっぱり〈わかば園〉はわたしにとって実家でした。三年近く離れて戻ってきたら、ここで暮らしてた頃より居心地よく感じました。 三学期が始まったら、文芸部の短編小説コンテストの選考作業をもって文芸部部長も引退。そして卒業の日を待つのみです。わたしはその間に、〈わかば園〉を舞台にした新作の執筆に入ります。今度こそ出版まで漕ぎつけられるよう、そしておじさまやみんなにに読んでもらえるよう頑張って書きます! ここにいる間にもうプロットはでき上って、担当編集者さんにもメールでOKをもらってます。 では、残り少ない高校生活を楽しく有意義に過ごそうと思います。 かしこ一月六日 愛美』****
****『拝啓、あしながおじさん。 新年あけましておめでとうございます。おじさまはこの年末年始、どんなふうに過ごしてましたか? わたしは今年の冬休み、予定どおり山梨の〈わかば園〉で過ごしてます。新作の取材もしつつ、弟妹たちと一緒に遊んだり、勉強を見てあげたり。 施設にはリョウちゃん(今は藤(ふじ)井(い)涼介くん)も帰ってきてます。新しいお家に引き取られてからも、夏休みと冬休みには帰ってきてるんだそうです。向こうのご両親が「いいよ」って言ってくれてるらしくて。ホント、いい人たちに引き取ってもらえたなぁって思います。おじさま、ありがとう! お願いしててよかった! リョウちゃんは今、静岡のサッカーの強豪高校に通ってて、三年前よりサッカーの腕前もかなり上達してました。体つきも逞しくなってるけど、あの無邪気な笑顔は全然変わってなかった。「やっぱりリョウちゃんだ!」ってわたしも懐かしくなりました。 そして、わたしが今回いちばん知りたかったこと――両親がどうして死んでしまったのかも、聡美園長先生から話を聞かせてもらえました。 わたしの両親は十六年前の十二月、航空機の墜落事故で犠牲になってたんです。で、両親は事故が起きる二日前に、小学校時代の恩師だった聡美園長にまだ幼かったわたしを預けたらしいんです。親戚の法事に、どうしてもわたしを連れていけないから、って。でも、それが最後になっちゃったそうで……。 幸いにも両親の遺体は状態がよかったから、園長先生が身元
「わたしが作家になれたのも、その人のおかげなんだよ。だから、わたしも感謝してるの」「そっか。うん、めちゃめちゃいい人だよな。で、姉ちゃん。さっき言ってた『新作のための取材』ってどういうこと?」「あのね、新作はここを舞台にして書くつもりなの。ここにいた頃のわたしを主人公のモデルにして。……この施設がわたしの、作家としての原点だと思ってるから」 もし両親が生きていて、この施設で暮らすことがなかったとしたら、愛美は果たして「作家になりたい」という夢を抱いていただろうか……? そう思うと、やっぱり愛美の作家としての原点はここなのだと愛美は思うのだった。「オレも久しぶりに愛美姉ちゃんと過ごせて嬉しいよ。静岡に行って、高校に上がってから夏休みにもここに帰ってきてたけど、姉ちゃんがいないと淋しかったからさ。また一緒にサッカーの練習、付き合ってよ」「いいよ。でもリョウちゃん、サッカー上手くなってるからついて行けるかな……」 三年近く会っていない間に、彼のサッカーはグンと上達している。サッカーの強豪校に進学させてもらったからでもあると思うけれど、今の涼介に愛美はついて行けるかちょっと不安だ。「大丈夫だよ、一緒にボールを追いかけられるだけでオレは楽しいから」「そっか」 いちばん年齢の近かった涼介と再会できただけで、愛美はここを離れていた三年間という時間がまた巻き戻ったような気持ちになった。 * * * * その夜、〈わかば園〉では施設を卒業した愛美と涼介も参加してのクリスマス会が行われた。 今年のクリスマス会は、早速愛美が寄付したお金も使われたのか例年に増してケーキもごちそうも豪華になっていて、子供たちも大喜びだった。 そして、例年どおり〝あしながおじさん〟=田中太郎氏=純也さんを含む理事会から子供たちへのクリスマスプレゼントもどっさり用意されていて、「そうそう、これがここのクリスマスだったなぁ」と懐かしくなった。
* * * * 愛美は宿舎へ向かう前に、庭の方を通りかかった。サッカー少年の涼介が、今日もここでサッカーの練習をしているような気が下から。 今もこの施設に暮らす男の子たちに混ざって、高校生くらいの少年が一人、サッカーボールを追いかけながら走っている。愛美は彼の顔に、自分がよく知っている少年の面影を見た。「――あっ、やっぱりいた! お~い、リョウちゃーん!」 手を振りながら呼びかけると、驚きながらも手を振り返してくれた少年――小谷涼介は、身長が少し伸びて筋肉もついているけれど、顔は三年前とほとんど変わっていない。「愛美姉ちゃん! 久しぶり……っていうかなんでここに? ――あ、ちょっとごめん! お前ら、今日の練習はここまで。もうすぐ晩メシだから、ちゃんと手洗えよ!」 子供たちのコーチをしていたらしい涼介は、泥まみれになっている彼らに練習の終了を告げた。三年近くここに帰ってこない間に、彼もすっかり〝お兄さん〟になっていた。「リョウちゃん、元気そうだね。わたしもね、今年の冬休みの間はここで過ごすことにしたんだよ。新作のための取材も兼ねてるんだけど」「そっか。そういや愛美姉ちゃん、作家になったんだよな。おめでと。オレも本買ったよ。義父(とう)さんも義母(かあ)さんも、『この本は施設にいた頃のお姉ちゃんが書いたんだ』ってオレが言ったら二人とも買ってくれてさ。ウチにはあの本が三冊もあるんだぜ」「そうなんだ? リョウちゃん、すっかり新しいお家に馴染んでるみたいだね。よかった」 自分が〝あしながおじさん〟=純也さんにお願いして見つけてもらった涼介の養父母。彼がその家に馴染んでいるか、愛美はずっと心配だったけれど、彼の口ぶりからしてすっかり気に入っているようでホッとした。「うん。二人とも、オレにすごくよくしてくれてるよ。園長先生から聞いたんだけど、愛美姉ちゃんが理事の人に頼み込んで見つけてくれたんだよな? 姉ちゃん、ありがとな」「ううん、わたしはただお願いしただけで、実際に動いてくれたのはその理事の人だよ。わたしの時にも手を差し伸べてくれたから、リョウちゃんのことも何とかしてくれるかな……と思ってダメもとでお願いしたら、ちゃんとしてくれて。ホント、いい人でしょ?」 彼はお金を出してくれて終わりではなく、常に相手にとって最善の方法を見つけてくれる。 愛
愛美の答えを聞いた園長は、困ったような笑みを浮かべた。「……実はね、愛美ちゃん。辺唐院さんも今月の第一水曜日にここへいらした時、私におっしゃってたのよ。『どうやら彼女は、僕の正体に気づいているみたいです』って。あなたは頭のいい子だから、いずれはこうなると思ってらっしゃったみたいで。もしかしたら、あなたに本当のことを打ち明けるタイミングを計りかねている感じだったわ」「そう……なんですか? だとしたら、彼はいつごろわたしに打ち明けてくれるつもりなんだろう……?」 彼がタイミングを計っていることは間違いないだろうけれど。打ち明けると愛美と気まずくなるのを恐れて、なかなか打ち明けられないというのもあるのかもしれない。「――とにかく、今日から二週間はあなたも実家に帰ってきたつもりで、ここでお過ごしなさい。ちゃんと取材には応じてあげるから。あとは子供たちの相手をしてくれたり、事務作業を手伝ってくれると助かるけれど。それはあくまであなたの意思に任せるわね」「はい」「あなたはまた六号室で寝泊まりしてもらおうかしらね。みんな、愛美お姉ちゃんと一緒に寝るのを楽しみにしてるから」「分かりました。六号室かぁ……、懐かしいなぁ」 愛美はここを巣立っていくまでずっと、六号室で五人の幼い弟妹たちと過ごしていたのだ。あれから三年近く経って、あの子たちも大きくなったことだろう。幼稚園の年長組だった子も、小学三年生になっているはずだ。「あ、あとね、涼介君も今、施設に帰ってきてるのよ。引き取られた先のご両親が、夏休みと冬休みにはここに帰ってきてもいいっておっしゃったらしくて」「えっ、リョウちゃんも? 嬉しいな」「ええ。今夜はクリスマス会をやるから、愛美ちゃんも参加してね。涼介君も参加したいって言ってたから。お正月にはみんなでまた近くの神社へ初詣に行きましょうね」「はい!」 まるで自分の祖母のような園長とのやり取りで、愛美はあっという間に三年前に引き戻されたような懐かしい気持ちになった。このアットホームな雰囲気が、この園での生活が楽しいと感じたいちばんの理由だった。「――そういえば、その服の感じも懐かしいわね。愛美ちゃん、ここにいた頃もよくブルーのギンガムチェックの服を着てた憶えがあるわ」 園長はふと、愛美が着ているブルーのギンガムチェックのシャツを眺めて目を細める。ボト